男性性と性暴力/自己無力感と支配欲強姦

(前略)戦闘に参加する兵士たちが特に強く感じるのは、数分先の自分の命がどうなるかわからない、自分で自分の命と運命をコントロールできないという非常に不安な「自己無力感」である。多くの兵がそのため「支配力」を渇望し、そうした無力感を克服しようと攻撃的な行動に依拠するようになる。それゆえ性行動が彼らの武器となり、その結果として女性の性が破壊される。しかし,そうした形での女性の支配と性的搾取は、精神的に荒廃し衰弱しきった兵士には、ごく瞬間的な解放しかもたらさない。したがって、兵士は自己欺瞞的で一時的な「支配欲強姦」を繰り返し犯し続けなければならない状況に陥る(田中利幸「国家と戦時性暴力と男性性ー「慰安婦制度」を手がかりにー」宮地尚子(編著)『性的支配と歴史ー植民地主義から民族浄化までー』大月書店、2008年、p.106)。


*旧日本軍の場合、戦争トラウマに殴打療法で対応していたので、兵士の「自己無力感」がヨーロッパの軍隊の兵士よりも強く、その分「支配欲強姦」が盛んだったのでしょう。水木しげるのマンガ『総員玉砕せよ!』(講談社文庫、1995年(初出1973年))は、旧日本軍の従軍慰安所の描写から始まり、無茶な「玉砕」を命令された旧日本軍の兵士たちが、作品の冒頭で従軍慰安婦たちが歌っていた哀歌を合唱する場面で終わっています。「女郎の方がなんぼかましだぜ」「ほんとだ」(p.344)。旧日本軍の従軍慰安婦問題には、「民衆相克」としての側面もあったのでしょう。また、1995年の阪神淡路大震災の際に被災地でレイプが多発したのも、「自己無力感」ゆえに「支配欲強姦」に走った犯人がいたからでしょう。