まず害するなかれ

(前略)心理療法は、巨大な運命の否定性に抗するべくもない、乏しい、ひっそりとした営みであり、ただ、ゆずれない一線は、「人間は憎しみを分かつためではなく共生共苦の慈悲を分かつために生まれてきた」(ソフォクレス『アンチゴネー』)ことであると著者は言う。心理療法士に通じるものとして挙げられるのは、なんと虚無僧であり、辻音楽師である。逆に、治療者が最も戒めるべきことは、傲慢(ヒュブリス)である。「まず害するなかれ」が、すべての治療と同じく、心理療法の基本であるのに、治療者の傲慢がいかに患者を害してきたことであろう。心理治療者は含羞を失えば致命的であると著者は強調する(中井久夫「霜山徳爾「素足の心理療法」」『私の「本の世界」』ちくま学芸文庫、2013年(初出1990年)、pp.138-139)。


*肝に命じておくべきことです。