空気系の「けいおん!」

http://www.asahi.com/showbiz/manga/TKY201112060258.html より転載
空気系、物語なき楽園求め人気 「けいおん!」ヒット


 軽音楽部でバンドを組む女子高校生たちを描いたヒットアニメ「けいおん!」の映画版が公開中だ。劇的な展開を伴わず、ゆったりとした日常を描く作品は「空気系」と称され、人気を集める。近年、アニメなど若者文化に目立つ、こうした傾向の作品の魅力とこれからについて考えた。
 「けいおん」は四コママンガを原作に、2009年〜10年にTBS系の深夜アニメとして放送された。ブルーレイとDVDの売り上げは累計約100万枚。声優がキャラクター名義で歌うCDもヒットした。
 「一生懸命に練習しないところがいい」。映画のプロデューサーも務めるTBS事業局の中山佳久さんは魅力を語る。テレビ版では、軽音部の面々が演奏する場面より、部室でお茶を飲みながらのんびりおしゃべりするほうが圧倒的に多い。勝利を目指して努力を重ねる「スポ根」な部活動とはまるで違う。
 ほかに「らき☆すた」など、00年代後半にブームとなった「空気系」。文芸批評家の坂上秋成さんは「時間が流れない、女の子だけの空間。この『楽園』が終わらないで欲しいと見ている側は願っていて、ドラマチックな物語はいらない」と位置づける。
 しかし、現実社会では、穏やかな日常を断ち切る大震災が起きてしまった。それでも「空気系」は人々をひきつけるのだろうか。
 中山さんは「毎日の幸せを求めていく作品は支持されていくと思う」。坂上さんも「人々はずっとネガティブな気分で生きているわけでなく、震災ですぐに空気系がすたれはしないだろう」と言いつつも、違った潮流を感じているという。
 震災時に放送され、大きな話題となったアニメ「魔法少女まどか☆マギカ」は一見すると、主要な登場人物が、ほんわかした外見の女の子だけという「空気系」でよく用いられるスタイル。ところが実際は、彼女たちは穏やかな日常から投げ出され、過酷な戦いに身を投じていく物語だった。
 それは、ほのぼのと安心して、女の子たちを眺めるような「空気系」の楽しみ方とは異なる興奮を、視聴者にもたらした。
 坂上さんは「震災に不安定な世界経済も重なり、空気系に白々しさを感じる人もいる。強い『物語』が求められていくのではないか」と話している。(宮本茂頼)