Basic Fault
ただ、氏には、何の瑕疵も全く無いかと言えば、この私にも、一つだけ指摘できることがある。それは、バリントの主著《Basic Fault》を氏は《基底欠損》と訳された。私からすれば、此の「欠損」という訳はいただけない。なぜなら、欠損とは、「根本的に欠けている」という意味であり、もう補いようがないからだ。テニスのフォールトだって、ルール上、線の外にでただけであって、ボールが無くなるわけではない。第一、地質学では、これを《断層》と訳している。だから、私は、《基底断層》としたい。「ズレている」だけなので、何らかの工夫さえすれば、繋がる可能性の余地があろうからである(山中康裕「中井久夫氏の人と書物のことなど」『中井久夫ー精神科医のことばと作法』河出書房新社、2017年、pp.86-87)。
*確かに、中井久夫氏は精神分析家バリントのいう“Basic Fault”ー精神医学でいう「境界例」と重なるところが多いーの治療に関しては、ペシミスティックすぎたのかもしれません。
アルコール依存症とジェンダー
西原 圧倒的に男性のほうが多いのは、やっぱり、男性のほうが生きづらい世の中だからということかな。おまけに男の場合は、周囲の女性、奥さんや母親がイネーブラーになって支えてしまうし。
――女性が依存症になったときには、男性が支えたりしないですか?
西原 支えませんね。男はこれ幸いと次の女をつくるのよ。
吾妻 女性は酒を飲む機会も少ないし、強要もされないからと、かつては言われていましたけど、今はあんまり関係ない気もしますね。
西原 酒を飲む女は、もうたくさんいるよ。
月乃 それでも、比較すればまだまだ社会的に酒を飲む習慣は少ないでしょう。シャブ中がシャブを打つ環境がないとならないのと同じようなことじゃないかな。アルコールじゃなく、別の依存症になる人が多いようです(西原理恵子・吾妻ひでお『実録!あるこーる白書』徳間書店、2013年、p107)。
*カウンセラーの信田さよ子さんが、「男性のイネーブラー」について分析していましたが、まだまだ例外的な話なのでしょう。